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 7    第6話 特別な人
 
 
 「よいしょっと・・・」
 ほこりだらけの本棚をどかすと、薄暗かった部屋に窓から光がさしてくる。物置になっているこの部屋も、こうするだけでずいぶん雰囲気がよくなったみたいだ。後は机を奥に動かせば、布団をひいて寝られるぐらいの場所にはなりそう・・・。と、私はそこまで考えたところでため息をついてしまった。
 どうも私はこういうのが苦手なみたいだ。友達を家によんだり、逆によばれたり・・・。まして泊めるなんて、私にとっては友達どうしですることだとは思えなかった。
 ・・・でも、あいつって今も「友達」なのかな・・・。
 「あれ?お前、こんな所で何してんだ?」
 「わっ、兄貴・・・」
 考えているうちに、どうやらやっかいな人が通りかかってしまったらしい。
 「あ〜、やっぱり自分の部屋を増やす気だな?ここはずっと物置に使うって・・・」
 「違〜う!私の部屋じゃないって!」
 「じゃあ何だよ、この暑いのに・・・。男でも連れ込もうってのか?」
 兄貴は冗談めかしてそう言う。
 「・・・言葉に問題はあるけど、まあそんな感じかな・・・」
 「な、なに〜?お前いつの間にそんな男作ったんだよ・・・」
 「作ったんじゃないし・・・なんていうか、ちょっと特別な友達なの!それに遠くから来てくれるから泊めてあげるだけで・・・」
 あいつのことをどう説明したらいいのかわからなくて、私は言葉に詰まってしまった。
 「はぁ?遠距離恋愛か?・・・まあいいや、なんにしろこんな汚ねえ部屋には泊められないだろ?俺の部屋をかしてやるよ」
 「えっ?じゃあ兄貴は?」
 「俺は直子の所におじゃまするのさ!問題は俺の部屋もいろんな意味でまずいってことだけどな・・・。一応、掃除はしといてやるよ!」
 「ちょっと兄貴、別に明日ってわけじゃ・・・」
 私が止める前に、兄貴は笑いながら出ていってしまった。
 ・・・「特別な友達」、やっぱり私はそう思っているらしい。その原因が4年前のあの出来事だっていうことはわかっていた。何もしていないあいつに、罪をかぶせてしまったことだって・・・。実は、あいつのことが好きだったのもあるけど・・・一番はあの時のことを謝りたい気持ちだった。
 もうすぐ、その気持ちをあいつに伝えられる。兄貴も気をきかせてくれたし、特別な場所・・・自分の家で伝えよう。私は本棚を元に戻すのをやめにした。めんどくさいからじゃなくて、明るい方がいいと思ったから。
 
 
 (『でも、彼もよく覚えていてくれたわよねぇ・・・。それだけで合格点になると思わない、お父さん?』)
 (『何の合格点だ・・・。はぁ、今日は帰りにくいな・・・』)
 (『こら、一家の主がそんなことでどうするの?るりかも言ってあげなさいよ・・・』)
 私はその日の朝のやり取りを、笑いながら直哉に話していた。
 「・・・なんだかお母さんだけ、変にうきうきしちゃって・・・」
 「そっか・・・。やっぱり悪かったよね、お父さんにもお兄さんにも・・・」
 「いいって、誰もいやだなんて思ってないよ!」
 隣に座った彼の方を見てそう言う。駅で会うにしてもバスに乗るにしても、彼とだと2人きりになってしまう。2人しかいないんだから当たり前のことなんだけど・・・私にとってはそれが特別だった。
 「る、るりかはどう?急に泊めてほしいなんて言われて・・・」
 「私?私は・・・」
 ちょっと考えてみて、私はふっと気がついた。
 「えへっ、結局一番不安だったのは、私なんだけどね・・・」
 「そ、そう・・・。るりかはこの間、話したいことがあるって言ってたよね?」
 「うん・・・。でも、その前にひとつ、きいちゃおうかな・・・」
 なんとなく、きいてもよさそうな雰囲気だ。2人きりってそういうものなのかもしれない。
 「直哉は、私のこと・・・友達だって思ってる?今・・・」
 「そ、それは・・・友達にもいろいろあるけど・・・」
 下を向いて、直哉は答えにくそうにする。
 「えっと・・・そのへんは、直哉の中の友達でいいよ。ちょっと気になっただけだから・・・」
 「・・・ごめん、僕はまだるりかの友達にはなれてないみたいだよ。気楽に返事もできないし・・・。今は少し、特別な人だって言ったらいいのかな・・・」
 「そんな、謝らなくていいよ!私が不安だったのは、そのことじゃないし・・・と、特別な人っていうのも、悪くないかも・・・」
 私は彼が選んだ言葉だけでドキドキしてしまった。
 「それだったら、いいんだけど・・・」
 ほっとしたように、彼はそう言ってくれた。
 
 「ふーん、お父さんの仕事が大変だったんだ・・・」
 「はい、今は落ち着いているんですけど」
 「そう・・・。転校してきてから、名古屋にはどれくらいいたの?」
 家ではお母さんが、ちゃっかり直哉の分のお昼まで作って待っていた。その上彼となれなれしく話し始めるんだから・・・なんだか私の方が気まずくなってしまう。
 「確か6年生の1学期だから、4か月ぐらいです」
 直哉はというと、困った顔もしないで答えているけど・・・。
 「4か月でそんなに親しくなったんだ?」
 「そんなにって・・・お母さん、変な想像してない?」
 私はそこで口をはさむ。
 「あら、違うの?でもあなたが誰かひとりとだけ会うなんて、なかなかないじゃない」
 「そ、それはまあ・・・」
 自分でもわかっていることを言われるとどうにも返しようがない。そのことを直哉にも聞かれて、私はあせってしまった。
 「やっぱり、何か特別なことがあったの?」
 「あの・・・まだ2人で、ちゃんと話せていなくて・・・」
 「そうなの・・・。なんだか邪魔しちゃったかしら・・・」
 直哉が遠慮がちに言ったので、お母さんは珍しくきまりが悪そうにした。
 
 長く伸びた扇風機のコードを、部屋のすみのコンセントに差し込む。
 「わりと、すっきりした部屋なんだね」
 「そ、そう?」
 止まっていた羽根がくるくる回り始める。
 「うーん、自分の部屋にいるときってあんまりないから・・・物が少ないだけかな?」
 「バイトが忙しいの?」
 「そういうわけじゃないけど、できるだけ毎日行くようにしてるの・・・」
 ・・・直哉と再会できたんだから、もうその意味もないのかもしれないけど・・・。
 「じゃあ平日も入ってるんだ」
 「うん、休みの日は友達と遊びに出かけたりもするし・・・」
 「そっか。るりかは小学校の時も友達がたくさんいたよね?」
 「うん・・・」
 扇風機が私の方を向いて、髪をゆらしていく。
 「直哉も、友達だったんだけど・・・」
 「えっ・・・」
 「なのに私があの時、本当のことを言わなかったから・・・」
 私は先にそのことを話そうと思っていたのに、言葉を続けられなかった。
 「るりか・・・。僕はそのせいで友達でいられなくなったとは思ってないよ。さっき特別な人って言ったのも、悪い意味じゃなくて・・・」
 「でも、私は直哉に謝らないと・・・。そうしないと、何も始められないから・・・」
 「・・・じゃあ、るりかから謝ってくれる?その後、僕も謝るよ・・・」
 気持ちをこらえきれない私に直哉はそう言ってくれた。ちゃんと彼に向き直って、私は伝えたかったことを声にする。
 「・・・直哉、ごめんなさい・・・あんないやな思い出を作って・・・。それにせっかくまた会えたのに、こんな話しかできなくて・・・」
 「うん・・・。僕こそごめん、るりかのためだと思ってしたことが・・・るりかを苦しめてたんだね・・・」
 「直哉・・・」
 私は冷たかった風が、少しあったかくなった気がした。それから本当に申し訳なさそうにする彼を見ていたくないと思った。
 「ううん、直哉が謝ることはないよ・・・。私はそのかわり、もう嘘をついてほしくないの・・・」
 「そっか・・・」
 やっと直哉は顔を上げてくれた。
 「うん、約束する・・・これからは嘘をつかないこと」
 「ありがとう・・・。私も、約束するから・・・」
 できるだけの気持ちをこめてそう返事する。誰かにこんなふうにお礼が言えたのは、初めてかもしれなかった。
 
 「それじゃあ始めようか、何かを・・・」
 落ち着いてから、直哉は私の思いにこたえてくれた。彼と向き合うまで自分でも気がつかなかった、その思いに。
 「う、うん・・・。とにかく、出かけようよ!じっとしてるのも疲れちゃうし・・・」
 「そうだね、どこに行く?」
 「えっと、とりあえずお昼・・・はもう食べたっけ・・・。うーん・・・」
 2人で行くような場所って、どこだろう・・・。私は直哉にきかれて困ってしまった。
 「ごめん、あんまり考えてなくて・・・」
 「・・・るりかが思いつく所は、具合悪い?」
 「うん・・・なんていうか、直哉が普通の友達になるみたいで・・・」
 4年前の話がすんでしまった今、私はそんなことを心配していた。
 「そっか・・・。でも、場所ってそんなに気にしなくてもいいんじゃないかな」
 「えっ?」
 「それに、ちゃんと謝って・・・お互いのことがわかったんだし、もっと特別な人になれると思うんだ・・・」
 「な、直哉・・・」
 顔を赤くする彼と、目が合ってしまう・・・。
 「あっ、そうだ!仲直りができた記念に、この部屋に何か買ってくるのはどう?」
 彼があわてて出したのは、そんな話題だった。
 
 「えへっ、案外部屋が歩きにくくなっちゃうかも・・・」
 2人であれこれ迷って、最後に選んだ小さめのカーペット。それを丸めて持ってお店を出た時には、もう夕方になっていた。
 「どうして?」
 「だって・・・あっ!ちょっとごめん・・・」
 ふっと知っている顔が前の方に見えて、私は歩く向きを変える。
 「誰かいたの?」
 「うん、友達なんだけど・・・」
 どうにか気付かれなかったらしい。
 「・・・そういえば、直哉は友達ってたくさんいるの?」
 「うーん、友達っていうより・・・」
 なんとなくきいてみたけど、彼は少し考えたみたいだった。
 「大事な人がいるんだ。るりかみたいに・・・」
 「そうなんだ・・・」
 直哉は今度は恥ずかしそうにしていなかった。
 「・・・帰ったら他のこともきかせてくれる?これの上で・・・」
 「うん・・・」
 私は彼が・・・目の前の人がどんな気持ちでいるのか、本当に知りたくなった。それも私には初めての出来事のような気がした。
 
( エンド )
 
 
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 微妙な言葉遣いに悩みつつ書いてみました。気持ちは真剣なんですが、るりかには真剣な言葉が似合わないんですよねぇ・・・。というか似合う人の方が少ないので、また苦労しそうです。
 今回も家族が脇役でしたが、結局お父さんは登場できませんでした(^^;



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